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札幌高等裁判所 平成8年(ネ)285号 判決 1997年5月23日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人北見信用金庫は、控訴人に対し、金一八万〇六六八円及びこれに対する平成五年四月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被控訴人らは、控訴人に対し、各自金一一〇万円及びこれに対する平成五年八月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人北見信用金庫

(一)  控訴人の同被控訴人に対する控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

3  被控訴人国

(一)  控訴人の同被控訴人に対する控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり当審における控訴人の主張及びこれに対する被控訴人北見信用金庫の反論を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決三枚目裏一行目の「原告が、」の次の「被告金庫」を「被控訴人北見信用金庫(以下、「被控訴人金庫」ともいう。)」に、同四枚目表一〇行目及び同五枚目表三行目の各「基き」をそれぞれ「基づき」に、同一〇行目から一一行目にかけての「甲八、乙イ三の1」を「甲四」に、同裏六行目から七行目にかけての「労災補償金」を「労災保険金」に、同八行目及び同六枚目裏五行目の各「労働者補償保険法」をそれぞれ「労働者災害補償保険法」に各改める。)。

1  当審における控訴人の主張

原判決の示す考え方の行きつくところは、差押禁止債権たる年金の受給者に対し、年金収入と見合いに貸付けをし、あるいはこれを連帯保証人に仕立てて二か月に一度入金されるたびに相殺し、もって例えば国民年金法二四条ただし書に基づく担保方式によらずに貸金を回収することを許す、ということにほかならない。

しかし、国民年金法二四条ただし書の趣旨は、同条本文と相まって、受給者の生活の安定を実現するために、取引秩序の要請を後退させて、給付が確実に受給者の手元に届くことを保障するというものである。給付金が年金の受取り目的のみの口座に振り込まれる場合、年金が一般財産に混入して識別できなくなるということはない。しかし、当該金融機関以外の第三者にはその事情は不分明であるから、第三者からの右口座の預金債権に対する差押えは認めたとしても、年金が預金されている口座であることを知っている当該金融機関からの相殺は許されないと解すべきである。このように解しても、国民年金法二四条ただし書による担保の途は開かれているので、受給権者の要求に十分応えられるし、当該金融機関の関係でも、入金の原因は予め知りうるので、相殺を禁止しても不意打ちになることはない。この基準はまた、年金取扱金融機関に対し、年金収入を見込んだ安易な貸付け(当人の借入れのほか連帯保証人として利用すること)を謙抑的にさせるという点で実効的な基準である。

2  控訴人の右主張に対する被控訴人北見信用金庫の反論

控訴人の主張は、年金取扱金融機関が年金生活者に年金収入を見合いに貸付けをしていると決め付けている点において誤りがある。年金の支払方式として振込払方式を選択するのは受給者であり、金融機関は貸付けを行うときに年金が振込払方式で支払われることを条件とはしていない。

また、控訴人主張の基準では、年金が受給者の預金口座に振り込まれて預金債権に転化し、差押禁止債権ではなくなったことを第三者との関係では認めておきながら、当該金融機関からの相殺を禁止するというのは論理の飛躍がある。明文の規定もなく相殺を禁じることが解釈論として許容されるためには信義則を根拠とすることとなろうが、一般に年金取扱金融機関の貸付けに信義則違反は認められず、本件においても同様である。控訴人の主張は解釈論の域を越えており、認めることはできない。

三  証拠関係<略>

四  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり原判決を訂正等し、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正等

原判決九枚目一一行目の「私」を「乙川」に改め、同裏一〇行目の「前掲証拠」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同一〇枚目表七行目の「原告は」の前に「以上のような本件の事情のもとにおいては、」を各加え、同八行目の「拘束されないのであって」を「拘束されないとするのが相当であるから」に、同一一枚目裏一行目の「労災年金」を「労災保険金」に、同一二枚目表三行目及び同五行目の各「差押」をそれぞれ「差押等」に、同六行目の「一般的には」から同一〇行目の「したがって」までを「年金等の受給権が差押等を禁止されているとしても、その給付金が受給者の金融機関における預金口座に振り込まれると、それは受給者の当該金融機関に対する預金債権に転化し、受給者の一般財産になると解すべきであるから」に、同裏四行目の「右によれば」から同八行目の「いうべきである。」までを「右事実に照らしても、国民年金及び労災保険金が本件預金口座に振り込まれることにより、控訴人の一般財産になったものと認めるべきであることは明らかであり、これが差押等禁止の属性を承継していることを認めるに足りる証拠はない。」に各改める。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

控訴人に支払われる国民年金及び労災保険金が本件預金口座に振り込まれて、控訴人の被控訴人金庫に対する預金債権に転化し、控訴人の一般財産になったこと、右債権は差押等禁止債権としての属性を承継しているものではないこと、したがって、同被控訴人がした本件の相殺が禁止されるものではないことは前記認定判断のとおりである。当審における控訴人の主張は、独自の基準を設定し、これに基づき当該金融機関(被控訴人金庫)からの相殺は許されないと解すべきであるとするものであって、右認定判断に照らし、採用することができない。

五  結論

以上のとおりであり、原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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